Fri

12

Mar

2021

時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて (ブルーバックス)

久しぶりに宇宙論の本を読んでみました。タイトルは「時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて (ブルーバックス)」という如何にも時間をお題にした流行といった感ですが、内容は非常に分かりやすく解説された宇宙論という趣です。読む前は何となくタイトルからタイムマシンの可能性を物理学的に探る!みたいな内容を期待していましたが、どちらかというとタイムマシンは主役ではなく、あくまで物理学と宇宙論の解説書といった内容です。著作の高水祐一先生はもう私より若い年齢の方なのですが、そのせいもあるのか今まで読んできた同ジャンルの物理学解説書と比べて、非常に分かりやすくある意味易しく解説しようという意図が見えます。また、ストレートに素人にも分かるように直感的に解説してくれているため、実は今まで分かったつもりでいた超弦理論とプレーン宇宙理論などの関係なども、今回初めてなるほどと分かった感じです。

 テーマは著作の題名の通り、対称性が原理としてある?物理学の中で唯一といってよい対称性がなく過去から未来へと一方向へ流れている(ように思える?)時間について、「時間の矢」はそもそも存在するのか、時間が逆戻りする可能性はあるのかというテーマを軸に、相対性理論から量子力学までの物理学のおさらいと、最新宇宙論までを分かりやすく解説してくれています。特にいわゆる大統一理論の候補である超弦理論と(本書で初めて知ったのですが)ループネットワーク量子論という2つの理論の解説までなされているのは、盛沢山でありつつも最後まで分かりやすい論調で一気に読めます

 最初の方でなぜ日本の学校では相対性理論を教えないのかという意見を展開されていますが、確かに自分も大人になって趣味?で読み始めた宇宙論をきっかけに初めて相対性理論の存在と意味を知った位ですが、何で学校で教えてくれなかったのかという疑問はあります。そもそも本書もそうですが、趣味?レベルで読んで納得できる内容を何で中学、高校で教えないのか、高水先生だけでなく多くの日本の著名な物理学の先生が思っているのかも知れませんが、若者の理系離れ特に物理学という学問への根本的な誤解(要は数学とあまり変わらない公式とそれをどう解くかに特化している日本物理の授業、私の自体の話ではありますが)は致命的な人材損失を生み出し続けているとしか言いようがありません。

 さて本書は時間をテーマにしつつ、物理学の最新トレンドを分かりやすい話で解説してくれている良書と言えると思います。特に統一理論である量子重力理論の2大候補である超弦理論とループ量子重力理論を、まあ今までの書籍の中では一番何とか理解に近づいた感がある感じです(それでも何とも理解できないのが量子理論ではあるのでしょうが)。そんな本書ですが、一番のクライマックスはやはり最後の「人間原理」と絡めた宇宙の輪廻!?のような最新宇宙論のお話でしょうか。

 本当に今まで読んでみた最新のトレンド(といってももちろん学会では既に十数年経た理論ばかりなのでしょうが)の宇宙論と宗教論や哲学に近い概念は、宇宙の謎の大きさと近年になって急速に発展したと思われる宇宙学も、結局は数百年前から人類が考えてきた宗教と大して乖離はないような気もしてくるのが、不思議です。分からないことが理論的により論じられるようになったというのが発展で、真の謎に近づくのはやぱり悠久の先のような気もしてきます。いづれにしてもこんな若い先生が分かりやすく楽しい宇宙論を出してくれるような世の中になって、まだまだ先が楽しみになってきました。今後の著作も期待しております。


この記事をシェアする

ディスカッション

コメントはまだありません

コメントはお気軽にどうぞ

※メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。


This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

”ところによりエンジニア”