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05

Mar

2021

夜の翼 (ハヤカワ文庫 SF 250)

この小説は随分以前から書評を読んで読みたかったのですが、古い小説のようで古本でしかなかったため、工具と一緒に日本のAmazonから転送.comで運んできてもらった荷物の一つとして読み始めました。一応、SF小説のジャンルということでヒューゴー賞とアポロ賞を受賞している作品でもあります。三部構成の長編なのですが、昔の小さな字の文庫本ということを考慮しても本の厚さは1cm未満の303ページなので中編+アルファといったボリュームでしょうか。中世ヨーロッパを連想させるギルドや文明レベルなのですが、主人公の<監視者>は小さな手押し車のような機械で地球から宇宙へ意識を飛ばして、太陽系への侵略者を感知する職業だったりと冒頭からSF要素は満載です。ミュータント?と思われる<翔人>の少女や異形の<変型人間>など、ファンタジーっぽい設定ですが、独特な世界観は思わず引き込まれます。主人公の<監視者>は既に老齢ですが、人生を掛けて感知してきた敵はついぞ現れず、監視そのものの意義を問い直すしいては主人公自身の人生は何だったのかという疑問を抱えつつも、あっさりと第一部の最後で人類への侵略者たる外敵が登場して、一夜にして人類社会の<支配者>たるロウム皇帝はその座を追われることとなります。

ここら辺までは意外な!?テンポの早さで展開していきますので、第二部以降もどんでん返しがあるのかと思いきや、<監視者>だった主人公がその役割を終えたギルドを離れて<記憶者>の見習いになります。そこで主人公から明かされる十数万年に及ぶ人類の壮大な歴史譚がこの物語のもう一つの核とも言えるのですが、その人類の悠久とも言える歴史がまた壮大でありつつ物悲しい感じで、銀河系の覇者たる地位を築きながらもその驕りと傲慢さから自ら没落し、こんな?中世ヨーロッパのようなレベルまで落ち込んでしまう経緯は何とも寂しい限りです。

それでも二部から三部にかけて、かつての人類の遺産であり<翔人>や<変型人間>を生み出したとされる遺伝子操作ユニット?や最後の方で主人公が若返る再生槽などの技術がかつての人類の頂点であった時代を忍ばせて、ファンタジーでありながらも未来のSFテイストが随所にうまくちりばめられています。そんな物語も最後は、<救済者>たる新しいギルドに主人公が参画し、最終的に人類が再び浮上する兆しを示唆しつつ終わるのですが、<巡礼者>というギルドといい三部の「ジョルスルムへの道」という副題からも分かる通り背景にはキリスト聖書の影響が見て取れるようです(聖書の内容をよく知らないので、詳細は正直分かりませんが。。。)。

ストーリーは主人公の周囲で進むのですが、それでも異星人や銀河も超える人類の歴史などSFテイストが入った世界観を描写しつつ、最後は冒頭で娘のように恋慕していた<翔人>のアヴルエラと結ばれるなど、まあ色々な要素を上手くまとめきっているなと感心してしまいます。SFと呼ぶには異色の世界観とストーリーではあるのですが、SFファンであれば楽しめるのではないでしょうか。

著者のロバート・シルヴァーバーグは相当昔の人物のようですが、SF以外にも相当な多作の作家ということで、機会があれば別の作品も読んでみたいと思います。


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