Wed

18

Sep

2019

たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF)

この本もSFの中では比較的有名な著作で以前から知っていたものの、手に取って読み始めたのは今回が初めてとなりました。表題作の「たったひとつの冴えたやりかた」を含めた3作がオムニバス的に収録されており、その3作共に遥かなる未来の異星人の司書が若いこれまた異星人のカップルに太古の昔のヒューマンと呼ばれている人類のエピソードを紹介する形で、この3話がエピソードとして収録されいている形です。
3話とも時代背景(といっても主人公の少女が誕生日に宇宙船をもらうような遥かな未来?)とテクノロジーは同じ時期のようで、人類が使っている宇宙航行手段や通信手段(この通信手段の「カプセル」が全体の物語にキーを与えているのですが)は共通なものとなっています。最初の表題作は主人公の16歳の少女の一人称で進んでいくので、これまたハードSFばかりを読んでいた最中でこの著作を読むと違和感があるのですが、ファーストコンタクトものとして秀逸なばかりか、寄生体である異星人と少女との意気投合と冒険、そして確かにハンカチなしでは読めない?という感じのラストと物語としても一気に読めます。その中で、今の現代よりは相当な未来のSFなのですが、書かれた時代背景もあるのか通信手段はカプセルという昔の航海時代を彷彿とさせる方法を取っているところにポイントがあります。単なる小道具かと思いきや、この通信手段であるカプセルの内容を時間差を置いて主人公や登場人物が状況を把握するところに、3話共通なのですが聞き手の想像や臨場感を与える重要な役割を果たしていると思います。
 3話それぞれ主人公も違えば、話のスケール感、内容も違う中で、共通しているのは人類が宇宙に進出していく過程で乗り越えていく試練とその克服の勇気みたいなものが、素晴らしく前向きに描かれていて、読後感も非常によいです。個人的にはすべからく良い中でも最後のエピソードである異星人連邦との戦争の手前まできた一触即発のファーストコンタクトの話が、非常に物語としてもうまく出来ているし好きな一遍です。こんな人類の希望を明るく描いたSFを上梓した著者のジェイムス・ディプトリー・ジュニアという方はどういう人なのかというのを知りたくて、楽しみにあとがきを読み始めたところ、なんと著者が夫を射殺して自殺したという衝撃的な説明が載っていました。正直、著者が女性だということには合点が行きましたが、この作品を発表した1986年当時既に自殺する年の1987年の直前なので享年71歳を考えるとかなりの高齢の時の作品ということには驚きました。作中のみずみずしいばかりの主人公達とは対照的だったと言える訳ですが、いづれにしても存命していればまだまだこの3話とも同じ背景のスペースオペラの展開も期待できたでしょうし、本当に残念です。この3話だけを読んだ限りでは、人類への希望と愛情に溢れた作者の人柄は容易に想像できるので、このような道を選ぶしかなかった著者の心中はどのようなものだったのでしょうか。
 ちょっと最後のあとがきで、著者の最後を知り面食らってしまう形でしたが、他にも幾つか翻訳されている作品があるので、来年の帰省時には是非購入しておきたいと思います!

 ちなみにこの古典とも言える名作ですが、幾つか書籍のバージョンがあるようで、私が購入した書籍のカバーはこんな少女漫画チックな挿絵のものでした。どうも最新の版では残りの2話が掲載されていないようなので(ちょっと意図が分からなくなるのでどうかと思いますが)、要注意でしょうか。


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