Wed

18

Apr

2018

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

先にノーベル文学賞受賞のニュースが世間をにぎわしたカズオ・イシグロ氏の最新作になりますが、読みたいと思っていてようやく春休みの帰国時に書籍を手に入れましたので、早速読んで読了したところです。
 読み始めのとっつき易さと読後の寂寥感は、他の過去作品と同様に素晴らしい限りですが、2015年に発表されたというこの作品、本当に当時から今に続く現代の最大の問題でもある世界の民族問題(移民問題)の本質を的確に捉えていて、この作品なども先のノーベル文学賞の受賞の大きな要因になったのではと改めて思わなくもありません。アーサー王没後のイングランドが舞台ですが、アーサー王は単語は聞いたことはあるものの、どこの人でどの時代の人物かというのは、とんと理解がありませんでした。本書では、背景がブリトン人とサクソン人という2つの民族の抗争期でありつつも物語はその2つの民族が小康状態で共存している状態から始まります。
 主人公であるブリトン人の老夫婦にサクソン人の戦士と少年、アーサー王の部下であったブリトン人の騎士が主要な登場人物で、それぞれの目的が最後になって分かるという伏線を張りながら、最後の竜を退治する場面がクライマックスとなります。ガウィン卿が実は竜の保護者であり、その目的がアーサー王が残した遺産、竜の息により人々の記憶を曖昧にして民族間の紛争を抑止していたこと、サクソン人の戦士がその竜を退治して民族紛争の口火を切る事だったという衝撃的な事実が、様々な伏線と相まって結実していくストーリーは圧巻です。
 題名の「忘れられた巨人」が何の事かも、この竜が葬られた後でサクソン人の戦士から語られる民族間の現代まで続く復讐の歴史を思うと、物語の終盤でその正体(抽象的ながらも的確な表現だと思います)が明かされる衝撃は、以前に読んでかつ自分が読んだ氏の最初の作品となった「わたしを離さないで」の衝撃というか感動に通じるものがありました。
 カズオ・イシグロ氏の出自から、無国籍な作品世界の印象があるものの、だからこそ逆に他の作家には描けない普遍的なテーマを平易な文学作品で表現できるのかとも思います。老夫婦と戦士、少年の4人の旅路の末路は、その後に予想される凄惨な民族紛争を思うと不安で一杯な終わり方なのですが、いつもながら悲惨な中にも老夫婦の終末への旅路が平穏になればよいという暗示、戦士と少年の関係などで、なんとか希望を見出せなくもない終わり方です。
 しかし、最初に読んだ「わたしを離さないで」はSF的世界背景、「日の名残り」や「わたしたちが孤児だったころ」は歴史を背景に、この「忘れられた巨人」はファンタジー的な古代(実際に鬼や竜が物語には登場します。それでもうまいアイテムとして使っていて、ファンタジーっぽくなく自然に物語の一部になってはいます)が背景ということで、変幻自在な背景ながらも世の中の不条理や現代に続く問題を問いかけているところが読み応えがあるのでしょう。
 作品の発表間隔は長いとのことですが(10年近く待つ場合もあるようです)、次回作も楽しみで仕方ありません。早く読みたいものです!


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