Mon

04

Dec

2023

寄港地のない船 (竹書房文庫)

先日に「宇宙の孤児」という世代宇宙船が登場する古典SFを読了した際に、検索で引っ掛かったのが本書だったのですが、作者がブライアン・オールディスという英国のSF巨匠でもあるということで、非常に楽しみに読んでみました。
 既に航行の目的が忘れられた世代宇宙船に人類が「部族」という単位で中世レベル?の社会システムで住み着いているところから始まる本書は、「宇宙の孤児」でも他の世代宇宙船でもみられる設定ではあります。ここら辺は、古来から世代宇宙船に対してのネガティブな観測というか、なかなか世代を超えて目的や文化のアイデンティティを保持するのは難しいのではという現実的な見解に基づいているとは思うのですが、そうすると本当に世代宇宙船を建造するような未来には相当なネックになるのだろうと予想されます。

地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)

  本書の主人公はそんな「部族」の一員である狩人のロイが世界である宇宙船の前部へ向かうというストーリーで始まるのですが、この世代宇宙船の構造がデッキで分断されている世界、主たる食糧である植物のお生い茂る船内という環境で、未知の「よそ者」や「巨人族」という設定が本書の大事な最後の謎解きの伏線になっています。
 結構な昔に「地球の長い午後」を読んだ際も気の遠くなるような未来の果ての地球のそのまた人類の末路?を描かれていましたが、今回の著作もある意味では長い人類の恒星間航行の末路を描いているということでは、モチーフは似ているのかも知れません。
 ネタバレではあるのですが、他の世代宇宙船が出てくる小説と趣が異なるのが、本書の目的地が既に当初の目的地には到達して地球に戻る途中であるといったところでしょうか。少なくとも最初の航海では目的は達して、地球へ戻る世代で起きた異変という設定であるのですが、その設定がまたラストと本書が置かれている状況の伏線にもなっています。ここら辺の発想も同じモチーフの世代宇宙船という小説の中でも独自の設定を編み出すことで、物語全体の中核としている著者ならではの才能なのではと思います。

 しかし英国SF界の巨匠とも言えるブライアン・オールディスですが、Amazonに流通している著作はこの2作ぐらいで、後は古本を探らなくてはいけない状況というのはなんとも嘆かわしい限りです。以前に読んでいたスティーブンバクスターと同様に絶版や未翻訳が多い状況は、今後改善されるのでしょうか!?

 まあなんにしても一読の価値のあるSF古典だと思います。

本作品の評価:4.5

この記事をシェアする

ディスカッション

コメントはまだありません

コメントはお気軽にどうぞ

※メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。


This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

”ところによりエンジニア”