Fri

27

May

2011

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

1月に映画を観てから、ずっと読みたいと思っていた本書をようやく読み終えることができました。一言で言えば映画と全く同じ感想で、先に映画を観ていた分、常に映像を思い浮かべながら読んでいたのですが、全く違和感がなかったです。それだけ映画化が素晴らしかったということですが、世界観や本書で作者が伝えたい普遍的テーマと言える人の尊厳と存在の意義?が文章でも的確に表現されています。主人公の一人称で回想として語られる本書は、映画も全く同じ構成ですが、映画では不明だった世界観の成り立ちが多少深く表現されていて分かり易いかも知れません。

ともかくも「人」とは何か、欲望の果てに辿り着く道徳的矛盾やシステムとしての社会の日陰と凶暴さなど、伝えるテーマは深く広いと思いますが、文章自体は淡々としており、情緒的な描写からは読み終える後までこれらのテーマの全貌が見えないところも緻密に計算された構成力や文章力の成す技なのでしょうか。ほんとに凄い作家だと思います。


本書の後半で主人公のキャシーとトミーがエミリ先生とマダムと再会する場面で印象的なのは、人生を賭けて会いに来た主人公たち二人とは対照的に用事の空き時間に会って話して、そして用事があるために引き揚げる描写があります。結局は味方を自称するエミリ先生やマダムも、外の世界の住人の一人であり、彼らにとって主人公たちは「人間」ではないことが明確に表現されている感じがします。 

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映画ではラストに主人公であるキャッシーが「外の住人と自分たちにどれだけの違いがあるのか?」というセリフを吐きますが、本書では単にキャッシーがトミーを回想するシーンで終わります。この差は表現としての違いも大きいのですが、読後に与える印象がはるかに後者の本の方が大きいですね。ほんとに某日本のベストセラー作家の本ではないのですが、読んでる最中はそこそこ面白いのですが、読み終わった後に何が言いたかったのか(何も余韻が残らない)わからない本とは比べるのも失礼な位の差があります。
作者であるカズオ・イシグロの著作は何冊か日本から持ってきたので、読むのが楽しみです。
感想とは関係ないですが、私が買った文庫本の表紙は古い?のかAmazonのテープの表紙とは違いますが、こちらの方が本書の印象に合ってる気がします。。。

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