Sat

22

Jan

2022

何ともなしに見ていたYahooニュースの「貧富の格差、食糧難…当たらずと言えども遠からず SF映画『ソイレント・グリーン』が描いた2022年」の記事中から見つけた映画「SF核戦争後の未来・スレッズ」を、これもまた何ともなしに観てしまいました。SF小説のモチーフとしては数限りない程の短編・小説がありますし、核戦争後の世界を描いた映画としては著名度から言えば、「ザ・デイ・アフター(The Day After)」の方が上かも知れませんが、図らずも米国のABCがテレビ映画として制作した「ザ・デイ・アフター」(1983年放映)とほぼ同時期にこちらも英国のBBCがテレビ放映したのが「スレッズ(Threads)」というのも初めて知りましたが、両方観た感想としては断然今回の「スレッズ(Threads)」の方が核戦争の恐怖と救いなさを描いているのに成功していると言わざるを得ません。

 この映画自体は1984年制作ということで、中東での旧ソ連と米国の対立から核戦争に至る経緯を、イギリスの一地方(といってもNATOの基地があるために核攻撃を受けることにはなるのですが)の新婚を控えた若い女性の視点を中心に、ドキュメンタリータッチで描いていきます(なんかモチーフが「ザ・デイ・アフター」に似ているところも感じますが)。ただ、ニュース形式で伝えられる中東危機が本当にリアルで、実際にその後に経験した湾岸戦争などを考えると、デジャブともいえるリアル感で、実際にこんな感じで危機が深刻になるのだろうなあという感じです。

 もちろん、当時と今とではインターネットを始めとする情報インフラの事情は全然違いますし(この映画の時代ではラジオとTVが主体のニュース媒体ではあるのですが)、サプライチェーンや飛行機のネットワークなど全然違うと言えば違うのですが、それでも大国同士の危機というのはこうやって始まって、気付くと引き返せないところまで来てしまうのだろうという、空恐ろしいシミュレーションドキュメンタリーではあります。

 そして、世界に核が降り注ぎ、後半は核戦争後の人類のサバイバルが残酷にも第三者視点のテロップで、主人公?各の冒頭の若い女性の境遇を軸に描かれるのですが、本当に容赦のないリアルさで、視聴者に襲い掛かるといった感じでしょうか。核の被爆後から数年持たずにイギリスの人口が中世並みまで激減する様や、有事に備えた非常時体制は全く機能しない現実、そして、主人公の女性が何とか産み落とした女の子が核戦争後の世界で長じる姿は、文明が後退する世界では子孫の教育も維持できず、核の影響が物理的だけではなくソフト的に文明を破壊するという一時的な破壊だけではない不可逆的な破滅をもたらすことを描いています。

 正直なところ、この映画のシミュレーションを悲観的すぎるとみるかまだ楽観的な要素があると見るのかは、意見が分かれるところかと思います。私個人の感想でいえば、本当に世界規模での核戦争が勃発したと仮定すれば、この映画の核戦争後の世界もまだまだ楽観的?なのではと感じてしまいます。中世レベルの生活水準まで後退しても一定の秩序とコミュニティ機能?が存在しているかのような描写もありますが、正直なところここまで破壊尽くされた状況で、コミュニティ的な秩序すら残るのかは疑問です。ただここまでリアルなシミュレーションドキュメンタリーを製作した製作スタッフですので、そこまでは熟慮の上、映画としてまとめるために、フォーカスする箇所を敢えて秩序の維持レベルに置かなかっただけだと考えています(ということで、実際にはこの映画の描写が想定される最も最低限の被害想定で、現実は恐らくは人類社会に秩序すら失われる結果が容易に想像できます)。

 そして、映画のラストですが、長じた女の子が身籠った子供を出産するシーンで終わるのですが、まったく救いのない絶望的な人類の未来を暗示して終わります。ただ、このラストも単に衝撃的なラストを設定したというよりかは、科学的に想定し得る最低限の可能性ということで、放射能で汚染された核戦争後の世界で、人類が健全な子孫を生物学的にも維持することが容易ではないという全くもって現在でも容易に想定される結末だと思います。

 むしろ、他の映画や書籍で描かれているような(例えば「渚にて」のように)短期的に人類自体が絶滅する、地球自体が住めない環境にもなり得る可能性の方が高いのではと想像します。随分前に渚にてのリメイクである「エンド・オブ・ザ・ワールド」を観たのを想い出しましたが、今回の「スレッズ(Threads)」も時間軸が違うだけで、人類に未来がない結末であるのは同じかと思います。

 こんな人類の破滅に直結している核兵器を持つことでした平和を維持できない?レベルの人類社会ではありますが、本映画のように使えば確実に破滅する(「相互確証破壊」)と全ての人が理解して機能する前提ですが、暗いことを考えれば、何かの間違いで核戦争が起きてしまった暁には「相互確証破壊」が機能したのかどうかの検証すら意味をなさない訳ですから、やはり人類存続のための最大のリスクだと言わざるを得ないでしょう。この核兵器のリスクはイーロン・マスクではないのですが、人類が「多惑星種」になるまで潜在的に抱えるリスクでしょうし、どちらが早いか!?という恐ろしいチキンレースの渦中を生きている世代だと後世から評価されるのかも知れません。願わくは全くそれでも構いませんので、「評価」してくれる後世が残る未来を選択したいものです。


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