Sat

14

Mar

2020

三体

この「三体」ですが、去年の暮れからずっと読みたくて年明けに遊びに来た親戚にわざわざ持ってきてもらった書籍の一つです!文庫本ではなくハード装丁で重かったようで申し訳なかったのですが、内容も期待通りの重厚さのある面白さでした。中国読み物らしく!?いきなり文化大革命の凄惨なエピソードから導入されるあたりは、SFらしからぬ感じがしますが、文革で命を落とす主人公の少女の父親が著名な天文の理論物理学者というところから、なにか宇宙に関連するSFを期待させる展開を感じさせます。その後、文革で波乱万丈の生涯を余儀なくされる少女の人生を辿る形で展開される物語は、やがて天体物理学を修める少女が文革の最中でも別世界的に隔離されている巨大なアンテナ基地である紅岸基地へ招聘されるところから、SFチックな展開が増していきます。その紅岸基地の真の目的が地球外生命体とのコンタクトというところまでは、何となくお決まりの展開とも言えますが、実際にはアンテナ程度では隣の恒星である四光年先にも届かないことなど、ハードSFを思わせる検証に基づいてやがて衰退していくプロジェクトとなるのですが、そこは実はとんでもない事実が現代の別の主人公であるナノテクノロジーの応用研究者の目線から辿っていくことで明らかになっていきます(この先はネタバレですので、未読の方はご注意ください)。
 時は現代に変わって、著名な物理学者が変死を遂げる事件が相次ぐ中、物理学の根底を揺るがす事象が相次いでいることが分かってきます。そんな中で、それらの謎を解くためのトップ委員会?に半ば強引に招かれたもう一人の主人公である汪淼(ワン・ミャオ)から、導入部の主人公であり既に大御所として引退している物理学者の葉文潔(イエ・ウェンジエ)と接触する過程で、過去に彼女が紅岸基地から太陽のエネルギー境界面?を使ったエネルギー増幅機構を利用して、直近の恒星であるケンタウルス座の三体文明へ太陽系の座標を特定させるためのメッセージを送信していたことが明らかになります。ここに至るまでに、汪淼が宇宙背景放射のあり得ない瞬きや、網膜に反映されるゴーストカウントダウンなど奇跡?とも言える不可解な超自然現象が起きていて、これらの伏線がどんな結末で収斂されるのかということだけでも、この物語に引き込まれてしまいます。
 物語終盤からは三体文明が地球への侵略を目指して艦隊を送ったこと(なんと光速の十分の一の最高速度でも地球に到達するのは450年後という壮大な話)、地球の人類に絶望したシンパからなる三体協会なる組織内部の抗争とその一派の勧誘手段でもあるVRゲーム「三体」など、テンポが速く色々な風呂敷が惹かれていくので、これまたどうやって回収していくのか謎でしたが、最後は三体文明の高度な量子科学(いわゆるミクロに畳まれている十一次元のテクノロジー)で全て説明してしまうところは、なかなか圧巻というかハードSFをうまく取り込んだまとめ方になっているなと感心してしまう展開です。
 そんなテンポが速すぎる中にも、主人公である汪淼のナノテクが三体協会から三体文明の情報を回収する重要なキーになっているあたりも、きちんと物語の伏線を回収しきってラストに繋げているのは、なかなかの筆力だと思います。ラストで汪淼を始めとする科学者が450年後に待ち構えている三体文明との対決を半ば諦めてしまうところに、庶民代表でもあるトップ委員会の警察出身の史強(シー・チアン)がイナゴと人類との闘いと人類と三体文明との闘いを対比させて、三体人から「虫けら」扱いされている人類が、イナゴを未だに絶滅させられていない現実から、闘いの成否はまだ分からないと説得させられるラストは、希望を抱かせる爽快な読後感でもあります。
 後半で、三体協会のもう一派の総帥でもあった葉文潔(イエ・ウェンジエ)を尋問するシーンが、この間に読了した「巨神計画シリーズ」を彷彿とさせるインタビュアー形式になっていたりと、なかなか柔軟な文章構成で飽きさせないのも本書の魅力でしょうか。全体としてはテンポが速すぎて盛り沢山の感はありましたが、それもそのはずでこの「三体」は例によって!?三部作の最初ということで、既に中国と海外では三部作が完結されており、全作で高い評価を得ているとのことです。ちなみにこのSF最高峰の賞といえるヒューゴー賞長篇部門を受賞しているのですが、なんとアジア系では初とのことで、そもそも英語原著以外の受賞も初ということだそうです。
 このタイトルでもある「三体」は、三体文明たるケンタウルス座の恒星が3つあることから起きる三体問題でもあるとのことで、タイトルしかり全編を通してハードSFたる雰囲気の中で、隣の恒星から異星人が侵略してくるのが450年後と判明している何とも現実感のあるようなないようなシチュエーションも魅力です。この先、数世代に渡って侵略に備える人類の軌跡はどのように展開していくのか、それだけを考えても次作の翻訳が待ち遠しい限りです!


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