Wed

10

May

2023

三体0【ゼロ】 球状閃電

引き続き三体ものですが、こちらは本編の作者である劉慈欣氏による前日譚?ということになっています。正直なところ前日譚という内容にはなっていないと思うのですが、三体とは全く別の独立したSF小説として素晴らしい完成度と面白さがあるというところでしょうか。
 正直、三体との共通点というか繋がりは登場人物に三体1にも登場する天才物理学者である丁儀が出てくるのと、作中で量子物理学の観察者効果であるところで、地球外生命の観察者の存在が示唆されているところ位しかなく、あとは完全に独立したエンターテインメント小説となっています。
 副題となっている球状閃電でもある「球電」という現象は、実際に存在しているようで、その物理現象としてのメカニズムはまだ解明されていないそうですが、本書ではマクロ電子!なるものがその正体で、マクロ電子やマクロ原子核なども登場して、これらが物語の後半の重要なキーアイテムとなっています。

 しかし、本当に三体を世に送り出しただけの作者の著作ということもあって、舞台は宇宙でもなく地球上の主に中国のとある部分で、本書の主人公もとある青年ではあるのですが、物語の構成や途中で登場する軍による球電の実験シーンなどは、三体三部作にもあったような映画を観ているような壮大なビジュアルを想起させます。宇宙が舞台の三体三部作とは全く舞台も時間軸も違うのですが、一冊のSFエンターテインメント小説として素晴らしい完成度になっているのは、もう劉慈欣氏の才能としか言いようがないのでしょう。

 本書の内容は読んでからのお楽しみとしていただくとして、三体三部作もそうだったのですが、中国社会、しいては中国国家の内部からみた視点というのが物語の最中から垣間見えるのですが、今まで中国という国の広がりや社会の複雑さをなかなか理解しがたいものが、ある視点ではすんなり説明されているというのも、作者の小説としての完成度の所以でもあるかと思います。そんな意味からも読んでいて楽しみが広がりますし、今回登場する主人公とヒロイン的な位置づけの女性将校である林雲もある意味ではぶっ飛んでいて魅力的ではあります。

 三体以来、劉慈欣氏の作品は短編集をはじめ色々と読ませていただいたのですが、欧米のSF作家とは文化的背景が違うのはもちろん、視点が中国(アジア)的である意味親近感もあります。それでいて氏の凄いところは、本作もそうですが読んでいるだけでハリウッド映画を思わせるようなビジュアルな迫力で迫ってくるところでしょうか。実際に映画化されている作品もあるようですし、その描写力がSF世界の幅を一層広げているというところなのでしょうか。

 本作品の最後は少ししっとり?とした物悲しい終わり方でもあるのですが、しっかりと量子物理学を絡めたモチーフになっているところが、ハードSFのようでありある意味その枠に収まらないジャンルになっているようでもあり、読んでいて興味の尽きない作家です。ちなみに繰り返しになりますが、本編の三体とはほとんど繋がりは感じない本作ですが、全く単体のSFストーリーとしても完成度の高い作品かと思います。

本作品の評価:5

 


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