Sat

29

Aug

2020

第五の季節 〈破壊された地球〉 (創元SF文庫)

こちらもこのコロナ禍の中、Kindleで入手して読んでみました。いつかの日経新聞の夕刊の書評でも高評価を得ていた記憶がありますが、異世界の「地球」を舞台に幾つかの登場人物の視点で描かれる別々の立場から物語で、この壮大な異世界の別の地球の歴史と”ロガ”と呼ばれる端的に言うとサイコキネシスを持つがゆえに差別され続ける人々の葛藤を描くSFファンタジーといったところでしょうか。まず魅せられるのがこの別の地球の歴史と世界観で、第五の季節と呼ばれる周期的に繰り返される大陸規模の災害(噴火や地震などが多いと示唆されている)という設定で、文明はその都度、壊滅的打撃を受けるため中世レベルの発達で滞っており(そんな中でも過去には現代レベル?まで発展できた文明もあったことが示唆される過去文明の遺跡である巨大なオベリスクがあったりする)、その災害に対してある程度コントロールできた文明や都市が次の季節まで生き延びてきたという設定です。その災害を乗り越えるための一つの方策となるのが、”ロガ”と呼ばれる地球の地殻変動を察知しある程度のコントロールを働きかけることができる異能の人達で、それが故に徹底的な差別を受け続けているという背景があります。物語の主人公はその”ロガ”たる年齢の違う女性達(3人)のそれぞれのエピソードが織り交ぜながら進むのですが、途中から第五の季節が発生している時期、その前後という時間軸から3人の年代が微妙に異なるのが分かってきます。

物語のキーパーソンであり主人公でもあるこの”ロガ”達ですが、差別をされながらもその能力故に時の政府(物語では一番強大で古い帝国)からは特別な庇護を受けて全国各地からその能力が発現した子供たちを首都に集めて訓練し、オロジェン(ロガは蔑称とされている)として災害の感知や土木政策、水治事業に貢献しているという設定です。スターウォーズの共和国のジェダイの訓練施設のようなイメージを連想させますが、その訓練組織はフルクラムと呼ばれておりロガをコントロールする守護者という人々がまた謎に包まれており、何かの別の目的を持ってフルクラムを組織したという暗示がされており、何故ロガを操れるのかという点もまだ不明なままです。それに加えて、”石喰い”と呼ばれる亜人種(外見は人間そっくりなのですが、感覚的には異星人のようなもの?)もこの世界の設定として組み込まれていて、恐らくはこの世界の成り立ちに何らかの役割を果たしていると思われます。

これだけでもなかなか重層な世界観を設定だと思うのですが、巻末にこの地球の年代史と用語集が収められており、物語の設定にあたって著者が壮大な歴史と緻密な世界観を作り上げていることが見て取れます。なので、本編の3つの物語も非常に奥行きがあるエピソードになっていて、社会背景の一つの柱になっている主要な職種を指しているカースト制度などと相まって、矛盾せず別の地球という設定ながらもあたかも中世の歴史物語を読んでいるような錯覚に陥ります。そして読み進めて後半に入るとなるほどと気付くのですが、この主人公たる3人の別々の年齢、背景だったと思われる女性が実は同一人物の異なる年代のエピソードだったということが分かり、クライマックスはこの3つのエピソードが一つに収斂されるとことで続編へという形で終わっています。

本書は三部作である<破壊された地球>の一作目ということで、三部作全てがSF界のノーベル文学賞ともいえるヒューゴー賞を受賞しているというので期待が持てます。実際にはSFでありつつもファンタジーでも有り得ますし、歴史小説ともいえ、以前に読んだ「全滅領域サザーンリーチ-ANNIHILATION」もそうなのですが幻想小説的な要素も多分にあるのかと思いますので、ハードSFとはまた別のジャンルともいえますが、SF小説の多様性と表現の幅の広さを具現化しているとも言えるのではないのでしょうか。それに加えて著者のN・K・ジェミシンは女性で黒人ということで、自称フェミニスト・ブロガーということで、この作品にも色濃く表れていますがマイノリティの差別意識も表現されている社会派小説の側面もあります。

この三部作も翻訳されているのは最初の本書だけで、あとの続編はいつになることやらとネットで探してみると本書の解説とともに発刊予定まで下記のサイトで丁寧に紹介されていました。

最近は書籍解説のブログやサイトも充実していますので、上記のようなサイトで書籍への理解も深められるので便利といえば便利なのでしょうか。
いづれにしても本書の続編はまだ来年ということですので、同じく三部作の最後の刊が待ち遠しい三体シリーズと一緒で、しばらくは待ちの時期が続きそうです。まあ読みたい本がこの先も待っているというのは、ある意味幸せとも言えなくもないのでしょうが、一日も早く読みたいところです。コロナもまだまだ収束はみえませんので、この先も読書の機会は沢山あると思いますし。翻訳家の方と出版社の方は大変でしょうが、頑張ってください!


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