Sat

04

Jul

2020

前回の「三体」のラストから四世紀後に訪れる異星人の侵略という事態にどのような物語が展開されるのか、正直全く想像もつかない中で読み始めた続編の「三体Ⅱ黒暗森林」でしたが、読後の感想というか感嘆になりますが、ここ最近のSFでは最高に面白かったと間違いなくいえると思います。前作もそうでしたが、読みなれない中国発の本格ハードSFということで、登場人物の中国名がなかなか頭に入ってこないという唯一の難点はさておき、今回も前作と同様に中国人の主人公である羅輯(ルオ・ジー)が、世界で4人だけが選ばれた面璧者という三体人へ唯一人類が対抗し得うる「思考力」たる頭の中だけは筒抜けになっていない点を逆手に取った戦略である対抗策である人材に選抜されるという奇想天外な幕開けで始まります。
それでも冒頭の前回の主人公たる葉文潔から“宇宙社会学の公理”のヒントを託される場面と、彼が面璧者に得ればれた理由でもある三体文明の過剰!?な反応の伏線が、最後の最後まで引っ張っていく重要なポイントとなっています。(この先はネタバレですので、是非この稀有な傑作SFを未読の方は読まないことを強くお勧めします!)
 続編である三体Ⅱの副題でもある黒暗森林(The Dark Forest)の意味が、物語の最後でフェルミのパラドックスの解にもなり、そして冒頭の伏線が全て繋がる展開は正直なところここ最近にない興奮でした。

 三体文明が四百年後に地球に到達するにあたって、地球人類が一丸になって結束するかと思えばそうでもなく、現実的な世界情勢の描写はまるでシミュレーションのようですが、AI陽子である智子によって情報が筒抜けになりかつ物理学の発展も阻害されているというハンディの中での国際社会の決断としては、まずまずはリアルな展開でもあると言えます。一方で、きちんと各国の政府が宇宙軍を創設していく過程も描かれており、かつそれらが全てきちんと伏線として物語の展開に繋がっていくのは小説としての読み物として非常に精度が高く、読んでいて引っ張られる要因ともいえます。

 続編は最初の三体の倍のボリュームがあるとのことで、上下編ですが今回はKindleで読んでいたため、あまりボリュームは意識できなかったのですがそれでも一気に読んでしまうほどの面白さでした。全体のストーリー構成も秀逸で、飽きさせないテンポでボリュームを感じさせないのですが、振り返ってみると現代から始まる第二部は2世紀半後の未来社会までを描いており、主人公他のメンバーが冬眠で未来までタイムトラベルするという工夫で、全体の話の構成と感情移入を途切れない仕組みになっています。

絶望の始まりから苦肉の策の面璧者計画から始まった人類の対三体文明への準備は、二世紀後には宇宙艦隊でありながら国家でもある閉鎖生態系を持つ宇宙戦艦数千機の陣容でもはや三体文明は脅威ではなくなっている社会に主人公が目覚めます。そんな明るい未来も「大峡谷」と呼ばれる衰退期を経ての繁栄であることが分かり、主人公他の中国軍の政治将校やもう一人の面璧者であるハインズなども冬眠を経て二世紀半後の世界で世の変わりように直面します。
それでも一見、三体文明への脅威は既になくなったかと思われた矢先に、先行して太陽系に到着した三体文明の先鋒である「偵察機」の捕獲から、人類の宇宙艦隊が数十分で偵察機と思われた小さい「水滴」に殲滅されるあたりは大どんでん返しの終盤への序章となる読みどころでしょうか。たった一機の無人偵察機に百万人の人類の宇宙艦隊があっという間にやられてしまうところから、正直物語の結末が全く予想できなくなってしまいます。それでも最後の面璧者である主人公のルオ・ジーが冬眠前に銀河系へ放った暗号たる呪文の効果として、一つの恒星系が人為的に破壊されていたことが観測の記録から分かるところは、どんな種明かしなのかと見当もつかない境地でした。
そして、その種明かしとして主人公が語る宇宙文明の真理が、冒頭で前作の主人公でもある葉文潔から託された“宇宙社会学の公理”のヒントから得たものである下りは、正直に唸ってしまわざるを得ません。葉文潔が示した唯一のヒントである「技術爆発」と「猜疑連鎖」という2つのキーワードから、本書のサブタイトルでもある「黒暗森林」たる宇宙文明社会の実像に迫った主人公の視点は、そのまま現代の我々の視点と重なり本当に興奮する下りです(読了後に何度も読み返した箇所の一つです)。あとがきの解説にもあるのですが、随分以前に読んだ「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由」たるフェルミのパラドックスの解がまさに示されたのではと思ってしまうところです。この主人公の独白は、21世紀からの親友でもあり一緒に冬眠で目覚めた前作からの重要なサブキャラである大史に語られる形なのですが、当然、三体文明の智子を通して筒抜けになっているのも見越した行為であることがラストに了解されます。
先だって、冬眠から目覚めて艦隊から離脱した人類唯一の生き残りの5隻(プラス2隻)が太陽系を離脱して他の恒星系を目指して逃亡する矢先に起きた事件が、この黒暗森林を示唆する重要なメタファーであったことも語られて、色々と伏線が収斂していくのはさすがです(何となくこの逃亡の旅路に出た宇宙戦艦も第三部への伏線として何らかの形で回収されるのではと、勝手に期待してしまっていますが)。

 そんな終盤での結論に近い事態から、唯一の希望の手段であった宇宙社会の真理を解明したことも、水滴が電磁波で銀河系への呪文発信装置たる太陽の増幅機能を封じてしまい万事休すというところから、どんな結末になるのかと想像もできない中で、主人公の面璧者としての立場も地に落ち、最後はルオ・ジーが廃人となってそのまま自殺を示唆するような場面で、本当のクライマックスを迎えます。しかしながら、またしてもそこからが大どんでん返しで、もうほとんど技術的には逆転は不可能だった三体文明と和解する方法として、黒暗森林を利用し太陽系と三体文明の恒星系の位置情報を、一見無駄な作業だと思われていた廃人に至るまでの仕事でもあった恒星核爆弾による明滅信号で発信できる準備を整えたルオ・ジーが智子を通して三体文明と取引するところは圧巻です。

最後の章は、ルオ・ジーの家族も冬眠から覚めて、三体文明の唯一の最初からの味方!とも言えた前作で地球へ警告を送った三体人と交信するおまけもついて、人類の地球は危機から脱した新しい希望に満ちた未来を示唆して終わります。日本語訳も良かったのか、非常に読みやすくいわゆるビジュアルな描写なので、そのうち映像化されるのも時間の問題ではないでしょうか(なかなかの長編になりそうですが)。
そんな三体の期待以上の第二作目でしたが、こうなると第三部の「死神永世」(タイトルからして黒暗森林を超える暗示が感じられますが)が猛烈に待ち遠しいです。珍しく一度読み終わった小説でしたが、先週のポーランド戻り際に読み終えてから、ポーランドにいる間中、ずっと読み返していました(宇宙艦隊が殲滅されるくだりや黒暗森林が解明されるところ、逃亡艦隊が猜疑連鎖に陥るあたりが多かったでしょうか)。こうなると以前に一度、スティーブバクスターの未翻訳タイトルをペーパーブックでチャレンジして挫折してしまいましたが、一日でも早く読むためには英語版でチャレンジするしかないのかも知れません。もっとも読み終える前に日本語訳が発刊されるのが早いというおちにはなりそうですが。。。次回作が待ち遠しいです!


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