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08

Nov

2019

トム・ハザードの止まらない時間 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

夏の帰省時に買っておいた本の一つですが、ポケット版の大きさでSFファンではすっかりお馴染みの早川書房から出版された新しい?文庫スタイルのポケット版サイズというのが古めかしい感じだったのですが、よくよく出版日を見てみると2018年ということで、出版されたばかりの本のようです。邦題の「トム・ハザードの止まらない時間」ですが、原題は「How to Stop TIME」で題名からもタイムトラベラーかタイムスリップものかというのが容易に想像できます。ストーリーは遅老症(アナジェリア)を患った(という表現が正しいのか、病気の一つとして扱われています)主人公のトム・ハザードがヨーロッパ中世の1500年から現代に至るまでの人々との出会いと葛藤を中心に、同じアナジェリアの人々の組織との関りを描きながら進んでいきます
 同じく中世の時にもうけた一人娘のマリオンを探しながら生き抜いていくというのが、物語のもう一つの軸になっています。現代に潜んで生きているトムが自分の過去400年を振り返りながら進んでいくスタイルですが、中世のペスト禍やシェイクスピアとの出会いなど、要所にエピソードが盛り込まれていてどちらかというとビジュアル的な脚本を読んでいるかのような臨場感です。
 それもそのはず?で、この小説は既に出版前から映画化権が買われているとのことで、映画化もされる前提ということなのでしょう。最近はコンテンツの青田買いのようで、既にドラマ化、映画化というのが目につきますが、それはそれで小説の面白さの裏返しであればよいのではとは思います。

 小説はトムが旧知の同じアナジェリア(物語中には結構な割合でアナジェリアの人々がいることが示唆されているのですが)の友人に組織に入るように勧誘に2,3百年振り!に会いに行くエピソードに向かってクライマックスになります。物語の途中でアナジェリア同士の秘密結社のような組織である「アルバトロス・ソサエティ」に加入するトムですが、結局はその組織に騙されていたことが分かります。もはや長命の目的と化していた娘のマリオンから組織の刺客として殺されそうなハプニングもありながらも、最後は組織の主催者であるヘンドリックと決別してカゲロウと呼んでいる普通の女性であるカミーユと新しい人生を送るところでラストとなります。

 なかなか長命な人間の存在というのは神秘的で羨ましいと思えそうですが、トムの苦悩を思うと本当に幸せなのかは微妙に思えてくるから不思議です。実際に遅老症なるものが存在していたらと夢は膨らみますが、広い世の中に何があっても不思議ではないのですが、実際には小説のようにひっそりとした存在か、淘汰されて絶滅しているかのどちらかでしょう、きっと。テーマは比較的重い感じですが、小説全体はトムの人生譚的なテンポの早い内容であっという間に読み切ってしまいます。長命のアルバトロスを狙う研究所の存在なるものもちらっと出てきますが、物語としてはあまり広げずにトムの周囲の話で括ったところが良かったのかと思います。

 過去に読んだ似たようなジャンルとしては「ベンジャミンバトン」や「バタフライエフェクト」など、長命な人生や過去に遡ったりといった話は、興味が尽きませんね。今回の「トム・ハザードの止まらない時間」については下のサイトに随分と詳細に解説がなされているので、興味を持った方は、そちらを読んでみるのが良いかと思います。


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