Tue
07
Feb
2023
最近読むSFは三体以来はすっかり中国作家のものが多くなった気がしなくもないのですが、この「時間の王」も中国のSF作家である宝樹(パオシュー)氏の短編集です。時間をテーマにしたSF短編が7編収められています。最初の「穴居するものたち」はなんとも終末的な感じでしたが、原始生活にまで退行してしまった人類が、また少しずつ歩み始める兆しで終わるというオチは壮大なストーリーでした。7編ある短編の全てが「時間」に関するSFなのですが、そのバリエーションや内容は千差万別な印象で、どれも飽きずに読むことができます。
そんな力作揃いの中ですが、敢えて決めるのであれば一番のお勧めは「成都往時」でしょうか。同じくタイムトラベラーものなのですが、タイムマシンの故障で過去にしかトラベルできなくなったヒロインと不死の主人公が数千年の歴史で邂逅するストーリーはロマンチックでもあり、きちんとタイムトラベルと不死のトピックスがキーとなっているところもよいです。時間の因果を完結させるというのは、ある意味確立されたモチーフとも言えるのですが、短編の中でテンポよく矛盾なくまとめているところも凄いですし、やはり最後の終わり方の何とも希望のあるところがよいでしょうか。
次にあげるとするとこれも難しい選択ですが、最後の「暗黒へ」という短編も本当にラストに絶望から希望へ向かうところが良いですし、その時間に秘められた膨大な時間の流れと主人公が賭けた「一瞬」の対比が、SF的でありながら希望のあるラストで、読み物としても本当に秀作かと思います。
こんな感じですので、全ての短編に通じているのは明るさのある楽観的な世界観で、読んでいて読後感がよいものばかりでしょうか。ここら辺の秀作揃いの中国SFの実状はやはり偶然ではなく、テーマの斬新さや豊富なストーリー展開など勢いのある国勢がSF作品にまで反映されているとしか思えません。今後も目が離せない中国SF事情といったところでしょうか。実はこの著者の宝樹(パオシュー)氏は三体のスピンオフでもある「三体X」の作者ということで、まだ読んでいない「三体X」への期待が果然、高まったといったところでしょうか。手元に届くのが楽しみです!
コメントはお気軽にどうぞ