Fri

15

Jun

2012

ひとめあなたに… (創元SF文庫)

最初の読み始めは一体何の少女漫画(みたいな小説)を買ってしまったんだと思ってしまうような作者独特の文体と、一人称のよくわからん文章で、正直読むのをやめようかと思いましたが、テーマが自分の好きなSFで地球が隕石で衝突するというお決まりものでしたので、何とか読み進めました。ところが読み進めるうちに、いやはやなかなかの構成とテンポの良さで気付くと最後まで一気に読んでしまった、そんな軽快なSF小説です。まあ軽快なのは作者の日記のような独特の文章(読んでいるうちに気にならないどころか、気に入ってしまいましたが)のおかげで、この文体が地球が滅亡すると分かった最後の人々の描写を暗くなるだけにならずに済むどころか、作者が書きたいテーマを表現するのに重要なのだと気付かされます。

1週間後に隕石が地球に衝突すると分かった主人公の圭子が、喧嘩別れした恋人の朗に会いに鎌倉まで行くという話を軸に、複数のエピソードが交差する形で描かれます。それらは普段は何気ない日常に隠されている平凡な人々の生活に潜む不満の闇が、世の中が終わるというシチュエーションを鍵に、噴出し色んな結果を生むのですが、どれも女性が主役で、女性の視点で描かれているので(作者が女性ですからね)、男性読者たる私は非常に興味深く読むことが出来ます。世の男性諸氏であれば周知のことですが、ほんとに女性は違う生き物だというのが地球が滅亡するという極限状況の中、確信犯的に描写されており、ここら辺が作者の狙いだったのかなと思いますね。


読み物としても非常に面白いのですが、やはりクライマックスで圭子が苦難の末に朗に辿り着いて一緒に鎌倉の海で過ごす一時の描写は、一言「美しい」です。そして地球に隕石が衝突しなくてもいつかは誰もの人生が終わるという現実を前に、その一瞬とも言える人生の中で(まあ男女になるのでしょうが)、相手を愛して求める想いの儚さと人生の意味を問いかけるのが本書のテーマでしょうか。実際にはそこまで重いテーマを追っている文章には見えないのですが、交差するエピソードの末、ラストで圭子と朗の会話で地球が終わることと同じ位、二人が出会って語り合っている時間が永遠の物に感じられて、そこに救いも感じますし、地球が滅亡するラストには変化はなくとも人が生きていくことへの希望を感じなくもありません。 

話しそれますが、以前読んでみた「地球最後の24時間」では似たようなシチュエーションで話が進むものの、ラストの終わり方は似ているようで異なります。どちらが良いかは読者次第なのでしょうね。似たような話では「終末のフィール」というのもありましたね。ここら辺、地球が滅亡する状況で人々がどんな風に感じて過ごすのかというのは、意外に日本人が好きなテーマで、描写したい内容なのでしょうか。 
ともあれ、本書のテーマはさておき最近読んだ最新宇宙天文物理の本などの影響なのでしょうが、いかに現実の地球も非常に脆い泡沫の一瞬のような時間の中で存在している気がしてなりません。歌か何かでありましたが、まさに地球は「奇跡の惑星」であって、フェルミパラドックスの本にもあったように無限の可能性があるようなこの宇宙でも唯一の存在である可能性の方が、その逆より大きいと思われるという立場からすると、何だか今この瞬間にも隕石が衝突して地球が無くなってもおかしくないのが事実です。それを考えると人生の心配以前に、随分と落ち着かなくなりますが、本当に最近の人類社会は宇宙への進出について、少々さぼり気味というか停滞感があっていらいらしてしまいます。真の意味での滅亡回避リスクは、地球以外の惑星なり恒星へ人類の居住域を確保して、初めて布団を高くして寝れるというものなのですが、今しばらくは少なくとも私が生きている間は、実現は難しいでしょうか!?
まあ月並みですが、戦争している場合でなく、そこら辺のエネルギーなりコストをもう少し宇宙進出に振り分けるシステムを作れれば、小さいころに夢見ていたスペースコロニー位はあっという間に作れそうな気が、作れる実力があるのが人類ではと思わなくもありません。手始めに衛星の月に恒久基地が出来るのを生きている間に見たいなぁ、なんて思いますね。
本の感想からずれましたが、ここら辺の考え方はSF好きの方々以外でなくても共有できるものではないのでしょうかね。せいぜい、生きている間に隕石はおろかガンマ線バーストやブラックホールの接近などはご免被りたいですな。

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